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あの出来事から1週間が経ち、藍子さんは病院から戻ってきた。
今では普通に自分の席である一番後ろの真ん中の席に座って授業を受けている。
俺はその席のほうを以前のように見てしまい、ときどき目が合う。
彼女と目が合った瞬間にすぐ目を逸らすので、こちらをどんな風に見て、どう感じているのか分からなかった。それは見続けるのが恥ずかしいというより、反応を見るのが怖いからだった。
俺はこれでも見ないように見ないようにと努力をしている。だけど無意識に見てしまう癖がついたらしい。
千也にいわれたようにまず自分を少しづつでも変えようと思った。しかし、ずっとこの性格だった心はそう簡単に変わってはくれなかった。
自分を変える事がこんなにも難しいことだなんて思わなかった。
今までこういう経験が無かったというのもある。2,3人に告白されたことはあったが自分から告白したことは無かった。
告白されても俺は昔は興味が無かったので全員に断った。今考えてみれば相当失礼なことだ。
ばちが当たったのかもしれない。今まで真剣に俺のことを好きになってくれた人をてきとうに振ったせいで。
千也はこの件に関しては本当に何も言わなくなった。
仲が悪くなったという訳ではない。勉強や学校のことについて自然ないつもどおりの会話をしているから。
だけど俺の恋愛に関しては全く何も話題にせず、触れなかった。本当に見事な程に。
ツカハラ クミ
自分の事は話した。アイツは同学年に彼女がいるのだ。名前は束原 久美。これがなんとも美人な人だ。千也もかなりもてるのでこの学年で一番のお似合いカップルだ。半年前からなんか二人とも両想いで付き合ったらしい。
千也はときどき話題がなくなると付き合っている束原との話をした。最初は彼女のいない俺に対しての嫌味かと思ったが、そんなつもりは毛頭ないようだった。ただの出来事を言っていた。
俺は千也のその話に憧れを感じていた。
普段の生活の中で、自分の好きな人といれたらどんなに幸せなんだろう。
それは話している千也が物語っていた。その話をしているときはいつでも笑顔で、まるで人生で一番楽しかった時間だったとでも言うような話し方。
でも俺はもうどうすることもできない。
最初から嫌われているのならもう無理に決まっている。このままの関係で続いていくのか―――
「うーし。帰るぞ水無瀬ー」
いつの間にか放課後になり、前から千也が声をかけて来た。考え事をしていると時間は早く進む。
「…はぁ」
思わず深いため息。悩んでばっかりだ。その大半の原因は今こちらに近づいてくる…え?
「水無瀬君。えっと…この前はごめんね?なんか私変な事言っちゃって」
彼女は少しだけ俯いて申し訳なさそうにした。そんな仕草でさえも俺の心は揺れ動く。
「え、あー、うん。別にいいけど…」
どうしたんだいきなり。まさか謝りに来るなんて思わなかった…ていうか心臓が、もたない。
「なんだ?水無瀬なんか言われたわけ?」
「いや別に大したことじゃ…」
「ほんと、ごめんね。んじゃ。」
そう言ってすぐ藍子さんは教室を出て行ってしまった。なんだろう。らしくないな。
「ふぅ〜ん。なんかいい感じになってきたんじゃないのかい?水無瀬君?」
「う、うるさい!」
俺と千也は教室を出て、階段を下り、下駄箱から靴を取り出して学校をでた。帰り道に正面から夕陽の光を浴びてさっきのことで話し合っていた。
千也は自分が藍子さんに水無瀬に対する態度を注意したからそれが彼女を変えたという意見を頑なに信じていた。
しかし俺はあまり信じられなかった。彼女は自分のことを相当嫌っていたと思ったからだ。千也にあれこれ言われたところで何も変わらないはずだ。
「そんなに嫌いな訳じゃないだろー?お前別になんにもしてないんだしさぁ。お前思い込みが激しいんだよ」
「そうだといいんだけどなぁー…」
あれやこれやと話しているうちに俺と千也は途中で別れ、それぞれの家へと帰った。
基本的に俺の家は俺が学校に行っているときに母親が夕食を作り、置いていってしまうのでいつも食卓では1人だ。
父親もなんの仕事をしているのか詳しく知らないが、相当ハードなスケジュールを送っているらしく、帰ってくるのは1ヶ月に一回あるかないかだった。
俺は電子レンジで暖めたオムライスを食べ終わり、テレビの電源をつけた。
ニュースではどこかの国の内乱が報じられ、画面越しに逃げ惑う人々の姿が映し出されていた。銃の音、立ち上る煙、子供の泣き声。それらすべてを俺は認識することができたが、いまいち自分の世界で起こっていることとしては結び付けれなかった。
他のチャンネルにも変えてみたが同じニュースやバラエティー番組などしかあらず、俺は電源を切った。
リビングの電気を付けっぱなしにして、自分の部屋がある二階へ行く為に階段を上った。ドアノブをガチャリと開けて、部屋の中へ入った。
その時だった。
俺は心臓が飛び上がった。
部屋の真ん中に俺とそっくりな人物がこちらを向いて立っていた。
「は…?」
途端に出てしまう言葉。まるで部屋の中に鏡があるように、もう1人の俺がそこに立っていた。
「やぁどうも」
俺はしばらく声が出なかった。そいつは声までは似ていないが、俺より少し高めの済んだ声をしていた。
5秒間くらい経った後、俺はやっと口を動かすことができた。
「だ・・・だれだお前は!どうやってここに入った!家の鍵は窓も全部閉まっていたはずだぞ!泥棒か!?」
「まぁまぁそう慌てないで」
これが落ち着いていられる状況か!と口が滑ってしまいそうなのを堪えて俺は冷静な対応を取るよう心がけた。
「泥棒なんだな?じゃあ盗んだものを返せ。返せば見逃してやる。ただしもうここには来るなよ。もう一度見つけたらすぐ警察に通報してやる!」
泥棒は少し焦りながら変な事を言って来た。
「えーと泥棒じゃないよ。盗んだものなんてないし。それに、警察に通報したって意味ないと思うよ?」
「な…どういう意味だ!」
そいつは今度は少し勝ち誇ったように想像もしていなかったことを言って来た。
「俺は……幽霊なんだよね。」
「はぁ?」
「だからぁー幽霊なんだってばぁー。信じられないと思うけどさ、水無瀬君」
なにを言っているんだこいつは。幽霊とかぬかしている。相当頭の逝っている泥棒なのかもしれない。
俺は唖然として目の前に立つ自分そっくりな存在を見続けた。
二重の目蓋、鼻、口、眉毛。顔立ちはほぼそっくりで、身長も大体同じだ。似ていない点といったら髪の色あたりか。目の前の人物は真っ黒だが俺は髪の色を少し抜いていた。
「とりあえず警察呼ぶぞ?」
「やれやれ…」
そう言ってその幽霊と名乗る者は驚くべきことをした。
そいつは俺の部屋の壁に手をやろうとした。しかし…
「と、通り抜けてる!?」
そいつの手はよく映画ででてくるように、水の中に入るようにして壁の中に入っていった。効果音を付けるとしたらスルッという音が確実につくだろう。
「どう?これでわかったろ?」
「な……お前は一体…」
「ゆ・う・れ・い。壁通り抜けられるし、大半の人間には見えないし声も聞こえない。俺を見ることができるのは霊感の高い人物だけ」
「う、嘘だろ…」
幽霊。この世に未練のある人間が具象化した存在。そんな存在なんて信じていなかった。
もし非常識なことは存在していても自分の人生に直接関わってくることはないと思っていた。それはどんなに彼女のことを思ってもこちらを振り向いてくれないのと同じように。
でも…霊感の高い人物だけしか見えない?
「俺は別に霊感なんて高くないぞ。そうやって俺を騙す気か?」
「どうして霊感が高くないなんて言える?幽霊を見たことがないから、ってか?だったら聞くが、幽霊と普通の人間との決定的な差ってなんだ?」
俺は答えられなかった。
そもそも幽霊のことなんて1年の中で流行る夏ぐらいしか考えない。幽霊の特徴なんて、周りからよく聞くありふれたことを参考にして推測するしかなかった。
「ほらな。お前は今まで幽霊を信じなかったために、目に入る人間は全て普通の人間として見てきた。だけどな、幽霊なんてそこら中にいる。お前が気づかないだけなんだ。俺を幽霊だと信じられないんならもっと確実な証拠を見せてやるよ」
そう言ってそいつは俺に部屋の隅にあるテレビをつけるように言った。そして―――
「ん。こいつ。この小川っていう奴。あと3日で死ぬ」
「な…」
今人気上昇中の俳優を隣りにいるこいつは死ぬと言ってきた。
「幽霊は人の寿命が分かる。詳細な時間は分からないが大体の日なら分かる。そこで、だ。」
勝手に話を進められて俺はそいつのペースにのまれていた。
「お前はあと3ヶ月で死ぬ」
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