もうこのまま風化してしまいたい


自然と溶け合って


ふわふわと漂っていられるなら


ずっと君だけを見守っていられるのに























好きな人がいた。

それは高校2年に進級して同じクラスになってからだった。とにかく俺は彼女に魅かれた。

背中までの長いダークブラウンの髪で綺麗な顔をしていた。笑顔が素敵だった。

学校に登校してからほとんど彼女の事を考え、見つめていた。授業中目が合うこともしばしばだった。

4月、5月、6月・・・・月日が過ぎていってもその気持ちは変わる事はなかった。いや、むしろ強くなっていただろう。

夏休み中は彼女に会えなくなり、結構しんどかった。部活にも入ってないのでなおさらだ。思ってみれば初めて人を好きになったと休み中に知った。

11月。

枯葉が街道に落ち、次第に寒くなる季節の時だった。無気力の俺にその一言が突きつけられたのは。



俺は温かいベットからなんとか起きて学校へ行く準備をし始めた。時刻はいつもどおりの7時50分。

至って普通の清潔でなく不潔でもない俺の部屋。全体的に青い系統の物を置いているのは一番癒される色だと聞いたからだ。

制服のズボンを着て昨日洗濯されたばかりの綺麗なワイシャツを着た。

部屋の東にあるベランダのカーテンを開けて眩しい太陽を見て少し目が眩んだ。俺は少し目を細めながら群青色のネクタイを首に巻きつけた。

「今日もまた始まったか…」

この言葉には別に嫌な意味はそんなに無い。最近人を好きになる事の苦しさをだんだん身をもって知ってきたからだ。

嫉妬、無力感、そんな感情が日々突き上げてくる。彼女の人気は結構あり、それが自分を苦しめている。

この思いを洗いざらい吐いてしまいたい。そう思っていても出来ないでいた。だって会話なんてろくにした事ないから。

見るともう時計は55分を指していて、俺は急いでバックを持って部屋を出て行った。階段を駆け下りて居間へ入った。用意されていた朝食を体に入れて玄関の扉を勢いよく開けた。

徒歩20分の道を早歩きで歩いた。11月にもなると結構寒くなり、辺りは冷たい空気で満たされている。

俺はあまりなにも考えずに黙々と歩いて学校に着いた。

8時半まで登校すればいいのに対して、今日はいつもより少し遅めの8時25分だった。


二年F組の35番の下駄箱へ行き、靴を履き替えて教室に向かった。

この学校はなかなか綺麗である。玄関からの長い渡り廊下は天井が高く、高い位置にある大きな窓達からは日光が廊下の床を照らしている。流石新築3年目だ。頭もそれなりにいい学校である。名前は未ヶ原南高校。

俺は別に叶えたい進路があるからこの高校に入ったわけではない。

ただ勉強ができる部類に入っていたので自分のレベルにあった高校に流れるがまま入っただけである。

俺は3階の二年F組の教室の扉を開け、教室の一番隅の窓際の自分の席に座った。

     ミナセ

「おう水無瀬、おはよう」

「・・はよ」
                         
センヤ
席に座るなり、一番の親友である小笠原 千也が声を掛けて来た。コイツは俺があの人の事が好きだという事実を知る唯一の人物である。

「全く愛想が無いな、お前は。そんなんじゃあの人に近づくことも出来んぞ?」

「公衆の場で言うな。あの人の前じゃ絶対に言うなよ」

俺はキッと両目で千也を睨んだ。

「はいはい。別に言っても気づかれねぇよ。お前は顔に感情がでないからな」

「なんだと…」

「もっと人間的になってもいいんじゃないの?お前は普通に振舞っているかもしれねぇけれど、結構”近づくな”みたいなオーラが出てると思うぜ?俺的に」

「そ、そうなのか」

嫌だな。別にそんな気は全然ないんだが、そういう風に見えるらしい。確かにあまり自分の醜い部分を見て欲しくないっていうのはあるけど…

「努力してみるさ」

「頑張れ。お前結構かっこいいと思うし、そんな悪い奴じゃないしな。俺は応援してるぜ」

そう言われた俺は内心かなり嬉しかった。千也はかっこよく、モテる奴だからだ。俺はモテないけど。

「ありがとな」

「まぁ問題はお前がどう行動するか、だけどな」

確かにその通りだ。なにかしろ行動を起こさなきゃ何も変わらないんだ。

「あ、千也君。おはよー」

「おはよ、星野。なんか今日は遅いね」

                アイコ

「うん。ちょっと途中で藍子のお見舞いに行ってきたから」

「え?」

今俺の好きな人の名前が出てきたけど…。俺はいつもの自分を少し見失っていた。

「あー、うん。昨日一昨日休みだったからその時に藍子、肺炎になっちゃって・・・・なんかほんと急だよね」

星野さんは俺の意外な反応を珍しそうに見て言った。

「そーなのかー。そりゃ大変だな藍子さん。俺らも今日お見舞いにいってやろうか」

「・・・だけど俺らが行っても別に嬉しくないんじゃないの?」

「大丈夫だって。入院している時は誰が来ても嬉しいもん」

「決まりだな」

そう話しているときに担任が入ってきて、俺らはそれぞれの席に着いた。千也の席は俺のすぐ前なので千也はさっきの事で話しかけてきた。

「こりゃあチャンスじゃねぇの?ようやくお前にも春が訪れ始めたんだなぁ」

「ほんとに行くのか?俺緊張して行けない…」

大体ほとんど喋ったこともない奴が行っても、ただ気まずいだけなんじゃないのか?

しかし肺炎か。金曜まではなんともなかったのに、藍子さんも結構無理していたんだろうか…

「お前、行かなきゃ絶対あとで後悔すんぞ?大体お見舞いなんだからさぁ、そんな緊張しなくていいじゃんか。同じクラスメイトとして行ったとしても何らおかしくないって」

「いやいや俺ほとんど喋った事ないんだぞ。そんな奴お見舞いに来て、普通喜ぶか?」

「喜ぶね。星野の言う通り、入院している時は誰が来てもうれしいんだって。お前が嫌だっていっても無理やりにでも俺は引きずってくぞ。大丈夫だって。俺が気まずくさせねぇよ」



学校が終わり、俺と千也は藍子さんの入院している病院へと向かった。

学校から川を挟んで2キロの場所だった。俺と千也がその川を渡る大きな橋の中ごろまで来た時、俺はやはり怖気づいてしまった。

「やっぱ帰ろう。俺もう緊張して駄目だわ…」そう言って俺は橋を引き返して自分の家に帰ろうとした。が、その時後ろから襟首を捕まれて引きずられてしまった。

「言ったろ。引きずってでも連れてくって。おとなしく言うとおりにするんだな」

「やめろー」

ズルズルと俺を千也は引きずっていく……



とうとう病院に着いた俺と千也は107号室と書かれた藍子さんのいる部屋の前に立っていた。

「開けるぞ?」

「ちょい待て」

俺は後ろに振り向いて、ゆっくりと深呼吸をした。こんなに緊張したことが今まであっただろうか?

「情けねぇなぁおい。もうここまで来たんだ。お見舞いの品だって買ったんだ。もうためらう必要などあるまい?」

「……うし」

「んじゃ行きましょかね」

そう言って千也は短いノックをして声を掛けた。

「えーと、同じクラスの千也だけどー。藍子さん、入っていい?」

千也ってどうしてこう女子にフレンドリーなんだろう・・・コイツ藍子さんと喋った事あんまり見たことないんだけどなぁ。

その時、俺が日々癒されているやさしい声が室内から聞こえてきた。

「え、千也君?来てくれたの?」

「うぃっす。もう一人連れがいるけどね」

おいおい・・・余計な事言わなくていいんだよ。俺はただそっとお見舞いに来たかったのに。

「誰?」と、藍子さんは少し警戒したようにそこに誰がいるかを伺った。

「んっとおんなじクラスの水無瀬。分かるよね?」

「水無瀬君…いいよ、入って」

その言葉からはあまり快く歓迎していないのがはっきりと俺には分かった。

ゆっくりと千也がドアを開けたその先に、俺が毎日思っている人がベットの上に起き上がっていた。